触媒

flat lap machine

ガラスのコールドワーク ― 削る、切る、磨くといった加工は、工具・ガラス・研磨材、それに自分自身を濡らしながら作業する水仕事で、ときに機械が巻き上げる水煙で半身がびっしょりになることもある。工房の水温、室温が低くなってくるこの時期は、そんな作業が少しずつ身体にこたえ始める。

ただ、水、機械の冷たさに気勢をそがれることはあるものの、当のガラスそのものからは冷たいという感覚を受けることがあまりない。ガラスは金属などに比べれば熱伝導率がはるかに低いからそう感じることもあるのだと思うが、そうした手触りからくる印象だけが理由でもない気がする。この感覚はどこからやってくるのだろう。

trim saw

台風が過ぎた秋の日の今日、工房では窓越しの光を受けたガラスの欠片の周りには、どことなく柔らかい空気が漂っている。

涼しげで夏に合うといわれるガラスだが、そんなステレオタイプを一旦脇に置くと様々な魅力を、季節を、こちらに見せはじめる。これから冬になればガラスが澄み渡る空気をさらに研ぎ澄ます。春がくればしっとりとした空気をより艶やかに見せるようになる。

ガラスはそれ自身はいつも変わらず周囲に作用する触媒のようなところがあって、置くことで、身に着けることで、そのときどきの空気を先鋭化する力があるのかもしれない。

glass